Column
PL脳の弊害
BtoBにおけるブランド投資の課題と未来
2024.10.22
2024.10.22
こんな人におすすめ
- マーケティング施策が短期的な成果主義になっている
- 施策がリードジェネレーションに終始している
- 中長期的なブランド戦略を検討している
BtoBマーケティングでは、従来から短期的な成果を求めるリードジェネレーションの施策が主流でした。これは、BtoBでは営業部門主導の文化が根付いており、売上に直結する数字が最優先される傾向が強いためです。しかし、近年では企業の中長期的な成長を支えるために、ブランディングや認知施策の重要性が見直されつつあります。それにもかかわらず、これらの施策は経営者に十分理解されず、十分な予算が下りなかったり、適切に評価されていないという現実があります。本コラムでは、この課題の背景の1つと考えられる「PL脳」に絞って解説し、そしてその視点からブランド投資をどのように捉え直すべきかについて考察します。
BtoB企業におけるブランド投資の現状
BtoB企業において、ブランド投資が行われにくい理由は多岐にわたります。まず、BtoB市場では製品やサービスの選択は、主に機能や価格といった要素に基づくと考えられがちだということです。そのため、感情やブランド価値が購買決定に与える影響が軽視される傾向があります。また、多くのBtoB企業は短期的な営業成績に依存するビジネスモデルが多く、マーケティング機能も営業への案件トスを目的とするリードジェネレーション施策が主流となってきました。
特に日本企業では、売上や利益といった短期的な成果が重視される傾向が強く、四半期ごとに業績が評価される上場企業においては、その傾向が顕著です。この背景には、PL(損益計算書)を重視する「PL脳」という考え方が根付いています。
BtoB企業では、伝統的に営業主導のビジネスモデルが主流であり、売上や利益といった短期的な成果が重視されています。この文化が「PL脳」と結びつくことで、短期的な収益性に偏った経営思考が形成され、ブランド投資への取り組みが後回しにされるケースが多いと言えます。
PL脳とブランド投資の葛藤
企業の財務において、投資は“将来の収益を生み出すための支出”とされ、BS(貸借対照表)に計上されます。一方、経費は“短期的な成果を目的とした支出”であり、PLに計上されます。ブランド投資は、中長期的な効果を期待するものであり、投資としての側面が強いと考えられます。しかし、現行の会計基準では無形資産として計上することが困難なため、ブランド投資はPLに経費として計上されることになります。
一方で、BtoBの活動では、ブランド投資が短期的な成果に貢献しにくいという側面があります。しかも、単発ではなく継続的な活動が求められます。そのため、経営者や現場のマネージャーから見れば、ブランド投資は“短期的な成果に繋がらない出費”として認識されることが多くなり敬遠されがちです。特に、四半期ごとの業績評価が重視される上場企業ではこの傾向が強まり、短期的な収益改善に注力せざるを得ない状況が生まれます。こうしたPL脳が企業文化として根付いていることが、ブランド投資への取り組みに影を落としている可能性があります。
仮にブランド資産がBS計上できることになると
ブランド投資が中長期的な投資であるという理解は、企業の経営者にとって非常に重要です。もしもブランド資産が無形資産としてBSに計上されることが可能になれば、企業の経営実態をより正確に反映できるだけでなく、経営者にとってもその重要性が理解しやすくなるかもしれません。
ブランド投資の中でも、特に「ブランド戦略の構築」や「ビジュアル・アイデンティティ」、「ブランドコミュニケーション」といった取り組みは、企業の長期的な成功にとって必須の重要な要素です。これらの取り組みは、市場における企業のポジショニングを強化し、競争優位を確立するために不可欠です。しかし、将来的な利益に繋げるための活動であるにも関わらず、現状ではPLに経費として計上されるケースが続いています。
これが、ブランド資産がBSに計上されるようになると、これらの活動は企業の資産として評価されることになります。この資産化により、企業はブランド投資を長期的な視点で捉え、将来の収益を生み出すための戦略的な投資として位置づけることが可能になります。以下に、その影響を具体的に見ていきましょう。
1.経営層の意思決定の変化
ブランド資産が無形資産として計上されることで、経営層はこれを単なるコストではなく、企業価値を高めるための重要な資産として認識するようになります。この変化は、意思決定プロセスに大きな影響を与えます。これまで、ブランド投資は短期的なPL上の数字に対するプレッシャーの中で見過ごされがちでした。しかし、資産化されたブランド資産は、将来のキャッシュフローや企業価値にどのように貢献するかが明確になり、経営層はより積極的にこれらの活動にリソースを投じることができるようになります。この結果、ブランド投資に対する判断がより戦略的になり、企業全体の長期的な成長を支えるための重要な要素として位置づけられます。
2.財務報告と投資家の評価の変化
ブランド資産が無形資産としてBSに計上されることで、財務報告の内容も変化します。無形資産としてのブランド価値が財務諸表に明確に示されることで、企業の総資産や純資産が増加し、企業の財務健全性が向上する可能性があります。この変化は、投資家や金融機関に対する企業の評価にも影響を与えます。従来の仕組みでは、無形資産の評価が難しいため、投資家は企業のブランド価値を正確に評価することが困難でした。しかし、ブランド価値が財務諸表に明確に示されることで、投資家は企業の長期的な成長ポテンシャルを正確に評価できるようになります。これにより、企業の株価が上昇したり、資金調達が有利になったりする可能性があります。
3.企業文化と長期的視点の醸成
ブランド資産が無形資産として認識されることは、企業文化にも大きな影響を与得る可能性があります。これまで短期的な成果を重視していた企業が、長期的な視点を持つようになり、経営層から従業員まで、ブランド投資が企業の未来に直結する重要な投資であると認識し、日々の業務においてもその意識が反映されるようになるかもしれません。この意識の変化は、企業全体の文化を長期的な成長志向に変革するきっかけとなります。従業員は、自分たちが行うブランド投資が企業の未来を築く一翼を担っていることを理解し、モチベーションが向上する可能性があります。また、経営層は、短期的な利益追求ではなく、ブランド価値の最大化を目指した戦略的な意思決定を行うようになるでしょう。
4.市場での競争力強化
ブランド資産を無形資産として認識した企業では、ブランド投資を促進し、市場での競争力を一層強化することが可能になります。強固なブランドは、価格競争からの脱却を可能にし、顧客ロイヤルティやブランド認知度の向上を通じて、長期的な収益を生み出します。さらに、資産として計上されたブランド価値は、企業が新規市場への進出やM&Aを行う際の評価額にも影響を与えるでしょう。強力なブランドを持つ企業は、他社との競争においても優位に立つことができ、成長機会を最大限に活かすことができます。
まとめ
BtoB企業において、ブランド投資が敬遠されている背景には、営業主導の文化や短期的な成果を重視する「PL脳」の影響があります。多くの企業が、売上や利益といった短期的な成果に直結するリードジェネレーション施策に注力し、ブランド投資を単なるコストとして見なす傾向が強いため、ブランディング活動が後回しにされがちです。また、ブランド資産が無形資産として財務諸表に計上されない現行の会計基準も、この傾向を助長しています。
しかし、このような状況が変わり、もしもブランド資産が無形資産としてBSに計上されることが可能になると、経営者のブランド投資に対する意識や認識が大きく変わる可能性があります。これにより、BtoB企業においてもブランド投資が単なるコストではなく、将来の企業価値を高めるための重要な戦略的投資として積極的に行われるようになるでしょう。結果として、企業全体の戦略が短期的な成果に囚われず、長期的な成長と持続的な競争優位性の確立に向けて、よりバランスの取れたものになるのではないでしょうか。