Column
BtoBのIT業界こそ、クリエイティブが重要な理由
〜「伝わらない」は、存在しないと同義である〜
- クリエイティブ
2025.07.07
2025.07.07
こんな人におすすめ
- 戦略立ててマーケティング施策を実施しているが、効果が上がらない
- マーケティングコンテンツの調達でデザインに悩まされている

BtoBマーケティングの領域で軽視されがちなクリエイティブやデザインの波及効果について掘り下げた前回のコラム「BtoBにおけるクリエイティブやデザインへの投資が及ぼす効果とは」は、非常に多くの反響がありました。今回のコラムでは、再びクリエイティブの領域に焦点をあてて、“伝える”ことの難しさと重要性についてさらに掘り下げていきます。
BtoBのIT業界で見落とされがちな“伝える力”
BtoBのIT業界では、製品やサービスの持つ“中身(=機能やスペック)の良さ”こそが最も重要だと信じる方が一定数存在します。もちろん、テクノロジーの信頼性や性能、導入効果なども評価の軸として外せません。よってプロダクトをリリースする側はこうした性能や機能面についての情報を中心に組み立ててプロモーションを展開します。しかし、それらがどれだけ優れていたとしても、伝わらなければ存在しないのと同じです。
特に、IT業界が扱う製品やサービスは先進的かつ専門的であり、高度で複雑な概念を含むこともしばしばです。こうした背景の中で「相手は当然理解してくれるだろう」や「良さが分かる人には伝わるはず」というスタンスは、とても危険です。なぜなら、BtoBの購買判断には、必ずしもITに詳しい人だけが関与するわけではないからです。
たとえば、あるセキュリティソリューションが高度な暗号化技術を搭載していたとしても、それが「業務上どのように役立つのか」や「組織にどのような価値を生むのか」が伝わらなければ、現場や経営層にとっては意味を持ちません。機能や技術の優位点を主軸としたメッセージでは届かないのです。このように、BtoBのIT業界こそ「いかに表現し、伝えるか」がプロモーションやマーケティングの成否にとって決定的な要素になるのです。
専門性の高さとリテラシーのばらつきという“二重の壁”
BtoBのIT業界には、高い専門性が求められるテーマが数多く存在します。ネットワーク、セキュリティ、インフラ、SaaS、生成AI──、こうしたテーマにはそれぞれに特有の前提知識が求められますが、関与する部門や担当者のリテラシーは千差万別です。
そして、「専門性がある人にも、無い人にも、同じプロダクトを説明しなければならない」ことがプロモーションやマーケティングを難解にします。たとえば、インフラ関連のソリューションであれば、情報システム部門には構成や技術優位性を訴求する一方で、業務部門や経営層には「業務がどう安定化し、どのようなメリットがあるのか」という視点で説明しなければなりません。
このような“複数のターゲット像に対して活きるメッセージ”を設計するのは、想像以上に高度な作業です。専門家にとっての当たり前は、非専門家にとっては呪文のようなものになりかねません。逆に、一般化しすぎると専門家からは「具体性が足りない」「信用できない」と思われてしまいます。
表現の難しさは、“誰に伝えるか”を明確にできていないことに起因する
この混乱は、多くの場合、「誰に、何を、どう伝えるか」という基本設計が曖昧なまま情報発信が行われていることに起因しています。特にBtoBマーケティングの領域では、製品紹介資料、LP、動画、セミナー登壇資料、提案書など、多くのコンテンツが必要ですが、すべてのコンテンツに対して一貫した視点で設計されていないことが多いのです。
例を挙げれば、情報システム部門に伝える内容と、現場部門に伝える内容は、本来まったく異なるはずです。情シスにとっては「システム導入のしやすさ」「他システムとの連携性」「運用管理負荷の軽減」などが関心ポイントであり、現場には「業務フローへの馴染みやすさ」「操作性」「成果への即効性」などが重要になるはずです。
情報システム部門にも現場部門にも、マーケティングを展開する上でどちらに向けた視点も欠かせませんが、「そのコンテンツは、誰に向けて作るのか」が不明確では、コンテンツに載せたメッセージは届かないのです。
また、特に業務系のSaaSやツールのような「業務を補完するITサービス」を訴求していくためには、ターゲット企業の業務内容を深く理解していなければ適切な表現ができません。こうしたサービスでは、「業務を知らない情シスが導入し、現場が混乱する」あるいは「現場が必要性を訴えても、情シスが導入に後ろ向き」といった課題は頻繁に発生しています。これは多くの場合、ターゲット企業の内部でITと業務の分断が起こっていることに起因しています。だからこそ、システム提案やプロダクト紹介、セールス用資料では、ITの視点と業務の視点を“つなぐ”表現力が求められます。
つまり、BtoBのIT業界において必要なのは、テクノロジーの説明能力ではなく、「業務課題に対する理解」+「それをITでどう解決するかを翻訳する能力」なのです。この“翻訳力”こそ、まさにクリエイティブの本質です。
BtoB のIT領域こそ、もっと“伝える力”に投資すべき
こうした複雑性を考えると、BtoBのIT企業こそ、表現と伝達の専門家であるクリエイティブパートナーと組むことが極めて重要です。もちろん「クリエイティブ」とは、単なるビジュアルデザインやコピーライティングではありません。
- 誰に向けて、どんな課題意識を喚起し
- どんな解決策を提示し
- どんな行動を促すか
という“構造設計”としてのクリエイティブです。
「一貫した伝達設計」×「適切な情報構造」×「伝わる表現力」──この三位一体を実現できるパートナーこそが、ITビジネスの成功を支える鍵になるのです。
BtoBのIT業界は、「伝える難しさ」の最前線にあります。なぜなら、専門性と非専門性、技術と業務、現場と情シス、意思決定者と利用者といった異なる視点をいくつもつなぐ必要があるからです。
だからこそ、伝える力──すなわちクリエイティブ──にもっと投資をすべきなのです。
それは単なるデザインやコピー制作の話ではなく、「誰に、何を、どう伝えるか」というマーケティングの根幹の話です。
そして、BtoBのIT業界ほど、「適切なアウトプット」を出せるクリエイティブパートナーに任せる価値がある領域は他にありません。
「伝わらなければ、存在しないのと同じ」──
その事実を、私たちはもっと真剣に受け止めるべきでしょう。