Column
BtoBマーケティングにおけるWebサイトの役割とは?
単なるコンバージョン装置ではない、役割の再定義
- プランニング
- web
- クリエイティブ
2025.09.08
2025.09.08
こんな人におすすめ
- 新たにWebサイトの構築を検討している
- Webサイトの評価を行いたいが、どのように行うべきか分からない
- Webサイトを運用しているが、思ったような効果が上がらない

-せっかくサービスサイトをリニューアルしたのに、問い合わせが増えない
-ホワイトペーパーもCTAも入れたのに、DL数が思ったほど伸びない
-CVやCVRは伸びてきたのに、ターゲット含有率が低い
これらはBtoBマーケティング、特にITサービスやSaaS企業で実際に多く聞こえてくる現場の課題です。こうした課題の原因は一体どこにあるのでしょうか?
多くのBtoBマーケターは、これら課題の原因として「マーケティング施策の不足」や「UI/UXの不備」そして「コンテンツの問題」を思い浮かべます。実際にUI/UXやコンテンツを見直すことである程度の改善は見込めるかもしれません。しかし、より根元的な課題として、BtoBマーケターが「そもそもWebサイトに“過剰なリードジェネレーション期待”を抱いている」というものがあると考えられます。
本来、BtoBマーケティングで活用されるWebサイトとは、複雑な工程を経るマーケティング全体の流れの中で「何を担うのか?」を明確に定義し、その上で構造やコンテンツが設計されるべきものです。「Webサイト=リード獲得装置」といった単純な式に当てはめられるようなものではありません。
このコラムでは「Webサイト=リード獲得装置」という多くのマーケターの頭の中にある前提を一度脇に置き、BtoBマーケティングにおけるWebサイトのあるべき役割を再整理してみます。
マーケティング全体の中で、Webサイトは何を担うのか?
多くのマーケターには「Webサイトはリードを獲得するものだ」という思い込みが根強くあります。もちろん、CVが取れるに越したことはありません。 しかし、Webサイトの目的をCVだけに据えてしまうと次のように多くの弊害が生まれてしまいます。
- トップページが情報過多で、誰に向けたメッセージなのか不明瞭
- CV/MCV狙いの無機質なCTA設計
- SEO対策目的の浅いコンテンツが多く、専門性が伝わらない
実は、こうした課題を孕んだWebサイトは、狙った効果とは裏腹に“信頼を失うWebサイト”になってしまう、つまり負の結果を残してしまう可能性すら秘めています。
本来BtoBのWebサイトは、リスティング広告やSEOから流入してCVを獲得すれば完了、という単機能の“CV装置”ではありません。むしろBtoBマーケティング全体の中では、CV獲得以上に重要な役割を担っています。
例えば−
- 認知を獲得したユーザーが「確かめに来る場所」
展示会やSNS広告などでサービスを知ったユーザーが、「どんな会社か?」「本当に信頼できるのか?」を確かめに来る段階。このとき必要なのは、会社のスタンス・思想・ポジショニングがきちんと可視化されていること。 - 既に接点を持ったリードが「判断材料を得る場所」
商談・ウェビナー・メルマガなどで接触したリードが、「競合と比較してどうか」を判断するために再訪します。ここではユースケース、差別化ポイント、体制、価格感などの情報が網羅的に整理されているかが問われます。 - 提案段階の見込み客が「社内稟議に使う根拠を探す場所」
稟議を上げる担当者は、「これなら通せる」という説得材料をWebから集めに来ます。この場合、導入効果や信頼性、わかりやすい説明資料などが社内の合意形成を支える武器になります。
このように、BtoBマーケティングでのWebサイトとは「売る前に選ばれる」ための多機能な構造物であるべきなのです。
いつWebサイトに流入してくるのか?
──購買プロセスに応じたWebサイトの位置づけ
では、どのようにしてWebサイトの位置付けを決定していけば良いのでしょうか?
まず考慮しなければならないのは、ターゲット市場の成熟度です。展開するサービスに対する市場の成熟度によって、見込み顧客が“どのような状態”でWebサイトに流入するのかが大きく異なります。
見込み客が“どのような段階でWebサイトに訪れるのか”を見誤ると、Webサイトの設計やチャネルの配分を間違えたまま施策を続けることになってしまいます。ここでは市場の成熟度合いによるWeb戦略の方針について掘り下げてみましょう。
市場が成熟し、見込み顧客のリテラシーが高い場合
このような市場では、Webサイトが購買プロセスの前半(課題認識フェーズ)で活用されることは相対的に少ないのが実情です。
例えば、大企業の情報システム部門が「ERP」「SCM」「インフラ」などを検討する際に、「業務効率化」といった抽象的なキーワードでWeb検索してCVすることはほとんどありません。検索行動はすでにベンダー名や機能が明確な“具体キーワード”での検索が中心であり、情報収集の経路はWeb検索ではなく営業や展示会、紹介などが主流です。
このような状況では、Webサイトはリード獲得(CV数)をWebに過度に求めるのではなく、次のようなKPIに注力すべきです。
- 指名検索による流入数(=ベンダー名・製品名検索)
- 再訪率/直帰率の改善
- 滞在時間やページ閲覧数(=熟読度)
- 資料DLや導入事例閲覧数(ユーザー行動のシグナルキャッチの目的)
つまりWebサイトの役割は、単なるCV装置ではなく、営業や展示会、紹介などといった他チャネルでの接点を補完し、検討精度を高めるための役割を担うことになるのです。
では、市場が成熟し見込み顧客のリテラシーが高い場合においてのWeb戦略は、どのように立ち回るべきでしょうか?
例えば、メルマガでは単なる情報発信にとどまらず、関連するWebコンテンツへ戦略的に誘導することで、顧客の関心領域や検討テーマを浮き彫りにすることができます。また、営業やインサイドセールスにおいても、提案時に事例記事やホワイトペーパーを積極的に提示し、Web上で補完的な情報提供を行うことで、信頼関係の構築や納得感の醸成を後押しします。さらに、セミナーやウェビナーにおいては、事前に関連コンテンツを共有して期待値を高め、終了後には理解促進を目的としたWeb記事や資料に誘導することで、学びの定着を促すことが可能です。
このように、Webは他チャネルと連携しながら、見込み顧客の理解促進と意思決定支援を担う“裏方の中核”として機能させるのです。
重要なのは、単体でのCV数ではなく、各チャネルの流れの中でWebがどう使われ、どのように貢献しているかを観察・設計することであり、Webは単なる接点ではなく「関係の中にある場」として捉え直す必要があります。
市場が未成熟で見込み顧客のリテラシーが低い場合
一方で、市場浸透度が低く、ターゲットの理解が浅い場合には、Web検索が“最初の接点”になることが多くあります。
例えば現在の「生成AI」や「ナレッジ共有ツール」など、新興分野でSMB向けの提案を行うケースでは、「AI 社内活用」や「業務効率化 ツール」など、抽象度の高いキーワードで検索が行われ、SEOや広告経由での流入からCV/MCVが十分に期待できるフェーズだと言えます。
このような場合に注視すべきKPIは次のようになるでしょう。
- SEO経由・広告経由の流入数
- 抽象キーワードでの検索順位・CTR
- 資料DL(CV)数/初回接点でのMCV
- コンバージョン単価(CPA)
こうした状況では、検索ボリュームの大きなキーワードを見極めた上で、「集客(流入)」と「教育(理解促進)」を両立するSEOコンテンツやリスティング施策が有効になるでしょう。この場合、Webサイトには“認知”と“顧客の目線”を引き上げるための機能が求められます。つまり、ファネルの入口としての設計が鍵になります。
このように、まず市場の成熟度を考慮した上でWebサイトの役割を検討していくと、その方向性や必要な機能はまったく変わってくるのです。つまり、
- 成熟市場 × 高リテラシー層: リード獲得はチャネルに任せ、Webでは“検討フェーズの精度”を支える
- 新興市場 × 低リテラシー層: Webが“最初の出会い”になるので、集客と教育を両立させる設計が必要
この見極めなくして、Webに何を求めるかの議論は始まりません。
Webサイトの“本来の立ち位置”を再定義する
CVだけを目的にWebを設計すると、購買プロセス全体の中で本来担うべき役割を見失ってしまいます。「コンテンツが浅くなる」「専門性が伝わらない」「顧客の検討フェーズと噛み合わない」「とりあえず資料DLがKPIになる」──こうした現象は、“Webサイトの戦略的位置づけ”があいまいなまま施策を進めていることが原因です。
「Webはどの購買段階を支えるのか?」
「このページを見た訪問者は、どんなアクションを取り得るのか?」
「この情報は、誰のどんな意思決定に寄与するのか?」
こうした問いに明確に答えられる状態にしておくことで、 CV偏重ではない、戦略的なWebサイト運用が可能になります。
Webサイトは「人格」と「判断材料」を届ける場である
当然のことながらWeb戦略においてリードジェネレーションも重要です。 しかし、BtoBマーケティングでは他のチャネルでも担うことができますし、Webサイトが単体で担う必要はありません。BtoBにおけるWebサイトの本質は、“売り込む”のではなく、“選ばれる理由を与える”ことなのです。
そしてBtoBでの購買判断には、多くの人が関わり、大きな責任を伴います。そのために必要なのは、言うまでもなく“信頼”です。Webサイトは単にCVを追うだけではなく、信頼を形成するために寄与すべき装置です。そこには「人格」が宿り、「必要な判断材料を届ける」という責務があると言えるでしょう。
- 情報の網羅性とロジックの一貫性
- 顧客の検討プロセスに即したコンテンツ構造
- 担当者が上司を説得できるレベルの材料提供
- そして、企業としての「人格」がにじむ言葉や視点
このような視点をもって改めてWebサイトを評価してはいかがでしょうか。