Column
BtoB企業の購買は本当に合理的に行われているのか?
2024.09.11
2024.09.11
こんな人におすすめ
- マーケティングにおいてコミュニケーションの設計を行なっている
- インサイドセールスやカスタマーサクセスなど、顧客接点を担っている
BtoB企業の購買プロセスは、その複雑さと多様な要因から、BtoCと比較して論理的かつ合理的に行われているとされます。しかし、実際には、購買が本当に論理的に行われているかどうかは疑問が残ります。本コラムでは、BtoB企業の購買において現実的にはどれほど合理的判断が行われているかを検討し、その背後にある要因について考察します。
合理的な購買を行うことは可能なのか?
BtoBの購買プロセスは、製品やサービスの選定において多くの要素を考慮する必要があります。これには、目的やニーズ、自社ビジネスや業務プロセスとの適合性、コスト、製品/サービス品質、スケーラビリティ、ROIなど、様々な要素が含まれます。しかし、これらの情報をすべてクリアにすることは現実的には難しく、限られた情報の中で最善の判断を行わざるを得ないことが多いのです。そのため、合理的な判断を行うことは理想ではありますが、実際には限界があります。
さらに、BtoBの購買には期限が設定されていることが一般的です。限られた期間内にすべての必要な情報を集め、完全に合理的な判断を下すことは現実的ではありません。このように、企業は限られた情報や時間の中で最良の選択をしなければならないのです。
そして、もし多くの購買活動が本当に合理的に行われていると仮定するならば、企業の失敗は少ないはずです。しかし、実際には多くの企業が購買において失敗を経験しています。
例えば、多くの企業で導入されているSFA(Sales Force Automation)について考えてみましょう。多くの企業で「ハイスペックなSFA」を選んだものの、そのポテンシャルの殆どを使いこなすことができずに高額なシステム利用料を支払っています。それであれば、「ライトなSFA」を徹底的に使いこなす方が、十分に成果も上がりコストも安く済みます。
これは必ずしも合理的な購買が行われていないことを示しています。
組織としての意思決定とは
また、BtoBの購買プロセスでは、個人が意思決定をするのではなく、組織における共同意思決定が行われるため、関与者が多いという特徴があります。例えば、複数の部門に関連するサービスを購入するときに、満場一致での購買決定がどれくらいあるでしょうか。恐らく各部門間の利害によって購買に関する意見が分かれ、合理的なだけではなく感情面にも配慮された意思決定が行われることもあるのではないでしょうか。しかし、それは組織全体のバランスから見ると「合理的」な判断なのかもしれません。合理的と言っても絶対的な解があるわけではなく、組織の立場や視点、価値観によって解が大きく変わることがあります。そもそも何をもって合理的なのか?ということを問うと、合理的な購買とは非常に難しく、そこに人間の感情が含まれるのを前提として考えなければなりません。
購買の目的と継続性
BtoBの購買は、基本的には何かの課題を解決したり、ニーズを満たしたりという目的を達成するために行われます。購買目的は、例えば「コスト削減」「生産性向上」「売上向上」「リスク管理」「法規制の順守」など様々です。そして、そのどれもが企業の成長と持続的な発展を実現するために必要な役割を果たします。しかし、購買が失敗するということはその目的が果たされずに企業活動にも影響を与えるため、購買にあたっては慎重に情報収集と精査を行います。そこには「失敗を回避する」という思考が少なからず働いていると考えられます。
また、BtoBでは継続的な取引が求められる傾向にありますが、「失敗の回避」という視点から見ると納得がいきます。すでに取引がある場合、継続的な取引を行う過程で、取引実績の蓄積や多くの情報交換を通してお互いを知り、信頼関係が出来上がることで、サービスレベルやリスクが明確になるため、取引失敗のリスクが低減することになります。そのため、取引実績のある企業や製品が選ばれやすくなるのです。
このように購買においては、「失敗を回避したい」という心理が働くため、企業は購入先に対して「信頼」を求める傾向があります。この信頼は、継続的な関係性を築く上で非常に重要です。信頼できるサプライヤーと長期的なパートナーシップを築くことで、企業は安定した供給を確保し、予期せぬ問題が発生した際にも迅速に対応できる体制を整えることができます。そのため、いかにして「信頼」を醸成していくのかはマーケティング上非常に重要なポイントになります。
説明責任が求められるBtoBの購買
ここまで見てきたように、BtoBの購買は必ずしも合理的な意思決定が行われているわけではなく、少なからず感情的な要素を含んだ意思決定が行われていることが分かります。しかし、なぜBtoBでは合理的な意思決定がされると言われてきたのでしょうか。その理由の1つとして説明責任が挙げられます。
BtoBの購買は企業の目的達成のために行われます。そのため、目的達成のために適切な検討が行われているのか、適切な判断がされているのか、また、上手くいかなかった場合、選定に問題はなかったのか、など、常に説明責任が問われます。その説明とは「なんとなく」「かっこいいから」「有名だから」などという説明では話にならず、合理的な説明が求められます。購買関係者は常に「合理的判断をしていると見せなければならない」というプレッシャーが付いてまわるのです。
BtoBにおいても、購買するのは「人間」である
「BtoBにおける購買は合理的な判断のもとで行われるため、パーソナルな理解は不要」と考える人も一定数います。しかし、これまで述べてきたように、購買における意思決定には感情的な要素が含まれることが大半であり、そもそも企業購買とはいえ、意思決定は人間がするものですから、100%合理的な判断は難しいでしょう。だからこそ、BtoBにおいてもパーソナルな部分の理解が必要になります。
例えば、同じ会社で全く同じ条件、同じ情報量でリスクのある購買を行う場合、次のような異なる人物がそれぞれ検討した場合に同じ結果になるでしょうか?
- 独身、35歳、男性、子供なし、出世意欲旺盛
- 既婚、46歳、男性、子供2人、リスク回避思考
- 既婚、40歳、女性、子供2人、家庭優先傾向
当然、その人のバックグラウンドによって判断基準は変わってくるのです。
こうしたことから、BtoBビジネスに携わるセールスやマーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスなどのすべての人は、「BtoBでは合理的な購買が行われている」と鵜呑みにせずに、購買するのは「人間」であることを常に頭に入れて活動することが重要になってくるのです。