Column

SansanのテレビCMを勝手に考察してみた
BtoB市場におけるテレビCMの可能性

2024.09.17

2024.09.17

こんな人におすすめ

  • 新たなプロモーション戦略を立案している
  • 既存の広告戦略に行き詰まりを感じている

BtoB企業がテレビCMを活用するケースは、近年ますます増えています。しかし、その中でも名刺管理システムのSansanは成功例として特筆すべき存在です。多くのBtoB企業がその後を追随しましたが、Sansanのようなインパクトを持つCMキャンペーンを展開できた企業は限られています。今回は、SansanのCMがどのようにして同社の成長を加速させ、法人向け名刺管理市場そのものの拡大に貢献したかについて考察します。

単なる名刺管理ソフトが市場拡大するまでの歩み

Sansanが市場に登場する以前、名刺管理は単なるソフトウェアとして認識されていました。PCに名刺管理ソフトをインストールし、PC上で活用されるのが一般的で、法人・個人を問わず利用されていました。当時は名刺情報をデジタル化し、一部の部署で効率的に管理・活用することが主な目的でしたが、この段階では市場の規模は限定的で、広範なビジネス層に浸透するには至りませんでした。

そこで登場したのが、Sansanが先駆けとなったクラウド型の法人向け名刺管理システムです。この段階では、人力補正による名刺のデジタル化と企業内での名刺情報の共有が強調され、より多くの企業が関心を持つようになりました。しかし、それでも市場規模は大きくならず、プロモーション活動は活発化したものの、業界全体を牽引するには至りませんでした。

その後、クラウド型の法人向け名刺管理システム市場が伸び悩む中、無料の個人向け名刺管理アプリが続々と登場し、個人ユーザーがスマートフォン上で名刺をデジタル管理することが普及しました。これにより、営業パーソンを中心にデータによる「名刺管理」という概念が広まりましたが、当時はまだ「名刺をデジタル化することで、何百何千枚もの名刺をスマホで持ち歩ける」といった程度の認識に留まっていました。

SansanのテレビCMがもたらした市場の拡大

このように、少しずつビジネスパーソンにも「名刺管理システム」というワードが広まり始めたタイミングで、Sansanは大胆なCM戦略を展開しました。このCM(※ 当時放映されていたCMは次のリンク先で視聴できます https://youtu.be/wpE4Nh-j66c?si=dV74aWt6tGqphlm3 )は、「法人向け名刺管理」において、単に名刺をデジタル化し、共有するという機能を超えて、「人脈共有」という新たな価値観を社会に浸透させることに成功しました。これにより、「法人向け名刺管理」は単なる効率化ツールではなく、営業活動の課題を解決するための重要な手段として位置づけられるようになり、結果として市場そのものが大きく拡大しました。

SansanのCMの素晴らしさは、「法人向け名刺管理」を単なる「名刺のデジタル管理」「共有ツール」という位置付けから、「人脈活用による営業効率化ツール」へと市場認識を変容させた点にあります。CM一つでこれを実現したことは、特筆すべき成功です。
もちろん、この成功には様々な要因が絡んでいます。当時、無料の個人向け名刺管理アプリが登場したことで、多くのビジネスパーソン、特に営業パーソンがデータによる「名刺管理」という概念を身近に感じ始めていました。これにより、名刺管理システムは一般化され、SansanのCMが受け入れられるための土台が築かれた可能性があります。このようにして、法人向け名刺管理システム市場が成長する素地ができたのです。
また、「法人向け名刺管理システム」が誰にでもイメージしやすいツールであったことも、Sansanの成功に大きく寄与しました。機能面では「名刺のデジタル化」や「名刺情報の共有」が強調され、誰もがそのシステム化を容易に想像できるようになっていました。しかし、その機能的メリットがどのように価値につながるかについては、まだ十分に理解されていませんでした。
さらに、当時は今ほど法人向け名刺管理システムやSFA(営業支援システム)が普及していなかったため、顧客情報、特に顧客担当者の情報を社内で管理・共有している企業も多くはありませんでした。そのため、「社内人脈を活用した営業活動」という潜在ニーズが存在していたと考えられます。

このような状況下で放映されたのが、あの「はやく言ってよ~」というキャッチフレーズのCMです。このCMは、企業が抱える「課題」をSansanが「解決できる」というメッセージを、短い動画で見事に表現しました。名刺管理の「機能的メリット」ではなく、社内における「人脈活用の課題解決」に視点をシフトさせ、それを卓越したクリエイティブによって表現したのです。これらの要素が上手く絡み合った結果、あのCMをきっかけに法人向け名刺管理システム市場自体が数倍に膨れ上がることにつながったのです。

成功の要因と他社が追随できなかった理由

多くの企業がSansanの成功を見て後追いしましたが、同じレベルの成功を収めることはほとんどできませんでした。これは、Sansanの成功が単調なプロモーション活動の成果ではなく、市場環境、タイミング、そしてサービスの特性が絶妙に噛み合った結果であるためです。これらの要素が揃って初めて、SansanのCMが市場に与えたような大きなインパクトを生むことができたと考えられます。
SansanのCMは、単なる名刺管理システムの枠を超え、BtoB市場における成功事例として語り継がれるべきものです。その成功の裏には、単なる広告戦略だけでなく、サービスの本質を見抜き、適切なメッセージを発信したという戦略的な洞察がありました。他社がこれを再現するには、単なる模倣ではなく、深い市場理解と独自の視点が求められるでしょう。

SansanのCMは、BtoB市場における広告の可能性を広げ、他の企業にも大きな影響を与えました。今後も、Sansanのように市場を変革する企業が現れることを期待したいと思います。

この記事を書いた人

安川 俊大株式会社エムエム総研

エムエム総研のカスタマーエクスペリエンスDivのDivision Managerとして、BtoBマーケティングに特化したサービスを提供。前職のSIerでは事業責任者、営業・マーケティングを統括し、セールステック領域のビジネス拡大に貢献。また、SaaSベンダーでは、SFAの導入コンサルタントとして多くの企業のSFA導入と運用支援に携わり、営業プロセスの構築をサポートした実績多数。

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