Column

BtoBにおける効果的なプロモーション戦略
市場の解像度を高め、優先すべき施策を検討する「M.A.P.S」

2024.12.02

2024.12.02

こんな人におすすめ

  • 事業戦略に中核的な立場として関わっている
  • 効果的なプロモーションができているか自信がない
  • 新製品やサービスのプロモーションを検討している

BtoBでの事業戦略は、長きにわたって営業主導の戦略を取る企業が多く、組織的にマーケティングに取り組む企業はごく少数でした。しかし現在では、顧客理解とプロモーション施策の最適化が事業成長を左右する極めて重要な要素として認識されています。特に、新しいカテゴリの製品導入や、新規事業のプロモーション戦略、また既存市場でのシェア拡大を図る際などでは、顧客がどのようなフェーズにいるのかを的確に把握し、それに応じたプロモーション施策を講じることが成功の鍵となります。本コラムでは、エムエム総研が提唱するBtoBマーケットで効果的なプロモーションを実施するためのフレームワーク「M.A.P.S(マップス)」を紹介するとともに、各段階での適切なプロモーションやコンテンツ企画の方向性を考察します。

【BtoBマーケットで効果的なプロモーションを実施するためのフレームワーク「M.A.P.S(マップス)」】※簡略版

BtoBマーケットで効果的なプロモーションを実施するためのフレームワーク「M.A.P.S(マップス)」

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カテゴリ認知と理解の拡大

BtoBマーケットに製品を投入する場合、まず最初に「販売する製品やサービスの“カテゴリ”が認知されているか?」や、「特徴を理解されているか?」という点が重要です。特に新しいカテゴリやコンセプトを持つ製品や、海外から新たに日本市場へ投入される製品においては、“そのような製品が存在している”ということ自体が市場に認知されていません。販売する側はその製品の価値を高く評価し、自信を持って投入するのですが、実際に高い価値がある製品であっても、「カテゴリ」自体が認識されていない状況では、想定されるユーザーは情報収集はおろか、聞く耳を持ってもいないような状態です。こうした状況では、大量の情報を投下しても暖簾に腕押しとなってしまい求める効果は得られないでしょう。市場を形成するためには、まず製品やサービスの「カテゴリ」と価値をターゲット市場に認知され、理解されることが必要不可欠です。

例えば、新しいテクノロジーや革新的なソリューションが導入される際、顧客がそのカテゴリが解決する課題や提供する価値を理解していない場合では市場が自然に形成されることはありません。まずは顧客がそのカテゴリの存在を認知し、その利点を理解するプロモーションを展開することが重要になってくるのです。

さらに、認知拡大の初期段階では「カテゴリ=自社」というイメージを持たせることが重要です。市場において競合他社が少ない段階では、自社がそのカテゴリの先駆者でありリーダーであるという印象を強調することができます。これにより、カテゴリの認知と自社のポジションを同時に確立することが可能になります。

また、カテゴリ自体は古くから存在して既に認知されている場合でも、そのカテゴリの最新の価値や機能が市場に適切に理解されていないことがあります。たとえば、従来から存在するカテゴリにおいて「課題が解決された新しい機能」や「時代に合わせた進化」がある場合、そのカテゴリは認識されている一方で、最新の価値が伝わっていないケースがあります。このような状況では、顧客がそのカテゴリに対して抱く「過去のイメージ」や「古い認識」を刷新し、再教育する必要があります。市場に対して正しい理解を促すことで、従来のカテゴリの枠組みを超えた価値を届けることができ、最終的に自社が「新しいカテゴリリーダー」としての地位を確立することにもつながります。

例えば、クラウドストレージやネットワークセキュリティなどの既に確立されたカテゴリにおいても、最新技術による機能強化や使い勝手の改善があるにもかかわらず、顧客が古い認識に基づいている場合があります。そのため、再教育型のプロモーションを通じて、カテゴリの進化と新しい利点を再認識させ、適切な理解を促進することが重要です。

課題認識と重要性の浸透

そして2つ目のポイントは、「顧客自身が“課題”を認識し、解決すべきものとして認識しているか?」です。

製品やサービスのカテゴリが解決できる“課題”が存在していても、顧客がその課題に気づいていない、もしくはその課題を解決すべき重要な問題として認識していない場合では購買にはつながりません。したがって、顧客が自社のビジネスにおける課題を認識し、それが自社のカテゴリによって解決できることを理解してもらうことが重要です。

多くの場合、顧客は問題を漠然と感じていても、それを「適切に認識できていない」「解決すべき重要な課題」として位置付けていないことがよくあります。ここで求められるのは、顧客に対して適切な課題の認識を促し、その課題の深刻さを理解させ、解決が不可欠であると感じてもらうためのプロモーション施策です。

この段階での施策としては、具体的な成果や価値が認識しやすい“事例活用型のコンテンツ”が効果的です。

リテラシー向上の視点

3つ目のポイントは、ターゲット市場におけるリテラシーの向上です。なぜなら、顧客がカテゴリの特長や自社の課題を正しく理解するためには、顧客自身の知識や理解を深めることが重要だからです。特に、カテゴリ周辺の最新情報や技術情報、また業務に関する基本的な知識が不足している場合、カテゴリの特徴やメリット、または顧客が直面している課題を適切に把握することが難しくなってしまいます。

前段で説明したカテゴリ認知・理解や課題認識を促進するための施策が十分な効果を発揮しない場合、リテラシーの不足が原因であることが多く見受けられます。このような状況では、顧客に対して基礎的な知識を提供し、理解を深めるためのリテラシー向上策が必要になってきます。リテラシーの向上には、ブログ、ホワイトペーパー、ウェビナーなどで教育的なコンテンツを発信したり、業界動向やベストプラクティスに関する最新情報を共有したりすることが効果的でしょう。

一見成果に結びつきにくい施策に見えてしまうこともありますが、マーケティング施策の効果を最大限に引き出すためにも、リテラシー向上策は重要な施策といえます。

課題の認識と解決手段を結びつけるプロセス

カテゴリの認知や理解が進み顧客が課題を認識している段階において、次に重要となるのは、その認識を「カテゴリ=課題」という形で明確に結びつけることです。市場が未成熟な場合、顧客は「課題解決が必要である」ということは認識していますが、解決手段とカテゴリとが明確に結びついていないケースがあります。この段階に達した顧客は、自社の課題を明確に意識しているため、いかにその課題が製品のカテゴリを通じて解決可能であるかを具体的に理解してもらうことが、市場の確立に向けて極めて重要です。そのため、カテゴリを課題に直接結びつけるための情報提供と具体的な事例などが必要になってきます。市場がこの段階まで進んでいる場合、既に導入した企業などもいるため、既存顧客が課題をどのように解決し、その結果どのような成果を上げたのかを詳細に紹介するようなケーススタディの発信やメディアとのタイアップ施策などが有効になってくるはずです。

また、カテゴリの変化に伴い、解決できる課題も変化するため、それを顧客の認識と結びつけるプロセスが重要です。カテゴリの進化によって、従来の課題を効率的に解決するだけでなく、顧客がまだ気づいていない潜在的な課題を解決する可能性もあります。そのため、カテゴリの進化がもたらす具体的な価値を顧客に分かりやすく伝え、課題と結び付けることで、顧客がそのカテゴリを選ぶ必然性を感じられるような施策が求められます。

検討意向の形成

BtoBマーケティングにおいては、認知や理解、好意が直接的に購買に結びつくわけではありません。(参照:BtoB企業の購買は本当に合理的に行われているのか?)購買に至るまでには、複数候補の比較検討が必ず行われます。そのため、BtoCでよく使われる「購買意向」という表現よりも、「検討意向」という表現がBtoBのプロセスを正確に反映しています。BtoBではこの「検討意向」の段階で、他の競合製品やサービスとの詳細な比較が行われるため、ここで選ばれるための適切な施策が必要となります。

この段階では、顧客に自社製品の「特徴理解」や「好意」を醸成するためのコンテンツを提供することが重要です。具体的には、適切な製品説明や製品の優位性を明確に伝えるケーススタディや、導入効果を具体的な数値で示すことが効果的です。また、顧客の意思決定プロセスには複数の関係者が関与するため、役割ごとに異なるコンテンツを提供する必要があります。例えば、経営層にはROI(投資対効果)を強調し、技術担当者にはシステムの技術的優位性や運用の簡便さを強調するなど、ターゲットごとに異なる情報を提供します。こうしたアプローチにより、意思決定プロセス全体にわたって支持を得ることが可能となります。

また、この段階で重要なのが「純粋想起」を高めるためのコミュニケーションです。検討意向が形成される際、顧客の頭に真っ先に浮かぶブランドとして純粋想起を獲得することが、競争優位性を確保する鍵となります。純粋想起を高めるためには、顧客が自社製品やサービスを容易に想起できるように、コンテンツやメッセージの一貫性を保つとともに、競合との差別化を明確にする必要があります。また、「カテゴリ=自社」というイメージを強調することで、他の候補と比較される場面でも優位性を維持することが可能です。

さらに“信頼”を積み重ね、“好意”を醸成することも不可欠です。BtoBの顧客は、長期的に信頼できるパートナーを求めているので、単なる製品やサービスの機能や性能だけでなく、企業そのものに対する信頼が購買意向に強く影響します。そのため、製品の機能的な優位性を伝えるだけでなく、企業イメージの向上も“好意”を醸成する重要な要因となります。そのためには、業界内でのリーダーシップや専門性をアピールすることが効果的です。例えば、業界の課題に対して常に最新のソリューションを提供している企業であること、そしてその分野で長年の実績があることを示すなど、顧客に「この企業なら信頼できる」と感じさせることができます。

短期的な成果のための施策 (追加オプション検索)

これまでは、市場が未成熟な状態を想定して「いかにして選ばれ続ける状態を作るか」という視点で中長期的に取り組む視点でしたが、次に短期的な視点に目を向けてみましょう。

BtoBでは、顧客が複数のサービスやソリューションを比較し、少なからず外部の情報を探索する段階が必ず存在します。この段階で自社が「今すぐ客(顕在顧客)」のリサーチ行動に引っかかるような施策を展開することが短期的な業績向上に直結します。 具体的には、リスティング広告やターゲティング広告、SEO対策を強化するなど、顧客が自社のサービスを容易に見つけられる状態を作ります。

また、特に業務システムなどでは、リプレース周期に基づいたDM送付後のテレマーケティング施策は非常に効果的です。ターゲット企業のリプレース周期を把握することで、適切なタイミングで顧客の関心を惹きやすく、効率的なアプローチが可能となります。DMでは具体的な課題や解決策を提示し、その後のテレマーケティングで顧客の課題を詳細にヒアリングすることで、購買意欲の高いリードを確実に絞り込むことができます。この手法は短期的な成果を上げつつ、顧客との信頼構築にも寄与します。

このように、短期的な成果を狙った施策を展開することで、即効性のある業績向上を目指すことも可能です。

まとめ

BtoBマーケティングにおいては、長期的な視点と短期的な成果をバランスよく考慮することが重要です。認知や課題認識を広げるための施策は中長期的な投資となる一方で、即効性のある短期的施策も併せて実施することで、継続的な成果を得ることが可能です。企業がこのバランスを見極め、状況に応じた柔軟なマーケティング戦略を展開することが、競争優位を確保する鍵となります。

「M.A.P.S」を活用することで、プロモーション施策をより効果的に検討するためのディスカッションツールとして機能させることができます。市場の解像度を高めながら、顧客がどのフェーズにいるのかをチーム内で共有し、各段階に応じた最適な施策を議論する土台を提供します。また、内的探索対象となるための中長期施策と、外的探索対象にアプローチする短期施策を両立させることで、現状のリード獲得の課題や施策のギャップを明確にしやすくなります。

本フレームワークは「決まった答え」を提供するものではありません。むしろ、チームメンバー間で「いま優先すべきこと」「改善すべき点」を具体的に洗い出し、戦略を強化するための会話を促進することを目的としています。ディスカッションを通じて、顧客の購買行動を多面的に捉え、柔軟かつ実行可能なマーケティング施策を導き出せるはずです。

この記事を書いた人

安川 俊大株式会社エムエム総研

エムエム総研のカスタマーエクスペリエンスDivのDivision Managerとして、BtoBマーケティングに特化したサービスを提供。前職のSIerでは事業責任者、営業・マーケティングを統括し、セールステック領域のビジネス拡大に貢献。また、SaaSベンダーでは、SFAの導入コンサルタントとして多くの企業のSFA導入と運用支援に携わり、営業プロセスの構築をサポートした実績多数。

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