Column
リード数至上主義からの脱却
BtoBマーケティングは、“市場へのリーチ状況”で捉える
- プランニング
2025.12.02
2025.12.02
こんな人におすすめ
- リード数は確保できているが、売上が伸びない
- 次にどのようなプロモーション施策を打つべきか判断できない
- 長期的なマーケティング戦略に携わっている
現在のBtoBマーケティングの現場では、リード数/商談数/CVR といった、分かりやすい指標で成果が語られることが一般的です。しかし、これらはいずれも “結果指標” に過ぎません。マーケティングを行う上でリード数やCVRが重要であることは間違いありませんが、事業を推進していく上で最も重要なのは継続的な売上であり、商談まで進んでも、契約に至らなければ意味を為さない数値になってしまいます。
特にニッチな業界やエンタープライズ領域をターゲットにした事業のように、ターゲット総数が少なく限定的な環境では、リード数は確保できているのに、その中に狙うべき企業や担当者がほとんど含まれていないという状況が頻繁に起こります。
これはつまり、マーケティング上の成果が出ているように見えても、真のターゲットには届いていないということです。
成果を見る前に、「市場をどこまでカバーできているか」を知る
BtoBの現場では、このような状況に陥っている企業は決して少なくありません。そして、この状況を是正し難い空気感に支配されています。実際、リード数やCVRのようなシンプルな数値で評価する方が運用は楽になります。楽に運用できるが故に、事業目標に繋がらない形骸化されたリード数だけに偏重した “リード数至上主義” に陥ってしまうのです。さらにこの構図を支えているのが、企業の評価制度・予算配分・レポーティングの文化が“短期的な数値”に最適化されがちであると考えられます。また、継続的な売上や事業目標の達成に向けて、全社一丸となって進むべきですが、マーケティングと営業が“分業”ではなく“分断”されている組織では特に陥りやすいと言えるでしょう。
本来、事業の成果に結びつくためにマーケティングを推進していくうえで本当に重要なのは、リード数を稼ぐ施策を実施することではなく、「市場のどこまでをカバーできているか」を構造的に理解したうえで施策を組み立てられているかどうかです。
つまり「現時点でどこまで手が届いているのか」を可視化することが、BtoBマーケティングの本当の出発点になるのです。
“構造で見るマーケティング”という考え方
この「現時点でどこまで手が届いているのか=市場へのリーチ状況」を考えるうえで重要な前提があります。それは、BtoBでは「購買期間が長く」、「複数の関与者がいて」、「衝動買いが発生しない」ということです。これはつまり、BtoCと比較して“広告的なリーチやインプレッション”がさほど意味を持たないということです。BtoBにおけるリーチとは、1to1で継続的に情報提供が可能な“接点獲得状態”=個人情報を取得した状態であり、広告的な“見た”ではなく、“届けられる状態に入った相手”をリーチとして扱います。この前提が明確になることで、「リード数」から「市場に対する実質的な接点数」へと議論が進化します。
では、どのようにして「市場へのリーチ状況」を把握していけば良いのでしょうか?
「自社が市場のどこに、どれだけ接点を獲得できているか」の分布構造を可視化し、構造として捉えるためには、MRS(Market Reach Structure)-Mapというフレームが最適です。
図版1:MRS(Market Reach Structure)-Map
これは単なる集計シートではなく、「自社が市場のどこに、どれだけ接点を獲得できているか」を分布構造として見える化するための“設計図”であり、マーケティングを“数”ではなく“構造”で理解するためのフレームといえます。
このようなフレームを利用することで、単なるリード数稼ぎではなく、市場のどこに向けて施策を打つべきか?を検討できるようになります。
では、さらにMRS -Mapを掘り下げてみましょう。
市場での“現在地”を構造的に整理する
MRS -Mapは、“今の市場” を構造として整理するためのマップです。図1の通り、ターゲット企業/非ターゲット企業と取引フェーズ(未取引/取引中/休眠など)をマトリクスで捉えるだけでなく、ターゲット企業内で「購買関与者/非購買関与者」を分類しています。これにより、
- ターゲット企業にどれだけリーチできているか
- その企業の購買関与層にどこまで届いているか
が一目で可視化されます。
同じ構造をリード数ベースで可視化したものにMRS-Static Map_Lead Reach Sheetがあります。
図版2:MRS-Static Map_Lead Reach Sheet
このフレームでは、ターゲットのどの層に厚みがあり、どこが空白なのかが分かるため、「新規リード獲得」「既存ハウスリストの育成」「既存顧客への価値提供」といった、マーケティング施策の優先順位が明確になります。
これらのフレームの最大の価値は、「獲得したリードの中に、狙うべきターゲットがどれだけ含まれているか」を構造として明らかにできる点です。特にニッチな市場では、
- 施策を広げる → リード数は増える
- しかしターゲット含有率は下がる
という矛盾が発生しやすいため、役職・購買関与度・部門などを軸に、ターゲット含有率(=理想顧客に該当するリード比率)を視覚的に確認できる仕組みが不可欠です。
このマップは、“リード数KPI”を“ターゲットリーチKPI”へとアップデートし、リード数至上主義から脱却するためのフレームでもあります。さらに、半期や年次ごとに更新することで、リーチ状況の進捗を追うことも可能です。
“市場構造の軌跡”を把握する
前述の通り、「市場へのリーチ状況」を具体的に把握することがBtoBマーケティングの出発点になります。しかし、あくまでも出発点であり「市場へのリーチ状況」は継続して観察し有効な施策立案につなげていかなくては意味がありません。では、MRS -Mapを“市場構造の軌跡”を把握するためにカスタムしてみましょう。
図版3:MRS-Dynamic Map
このフレームは、過去1年間で「市場へのリーチ状況」という構造が、どのように動いたか を可視化するマップです。新規獲得、育成、維持、離脱といった動きを同じ構造上に重ねることで、「ターゲット層にどこまで届けられたか?」「どのセグメントに強く効いたか」「どこが動いていないのか」といった、マーケティングが本来担うべき成果が直感的に分かります。
さらに年間予算を加えれば、ターゲットリードの真のCPA(Cost per Actual Target)が明確になり、翌年のプロモーション方針を感覚ではなく「構造×データ」で議論できるようになります。
これまでに紹介したフレームは “構造を理解するための思考の枠組み” であり、そのまま当てはめても上手くいくとは限りません。各社の事業特性に合わせてカスタムすることが重要です。例えば、扱う商材によって「購買関与者」の範囲は大きく異なりますし、利用部門へのリーチが重要なケースもあります。そして、取引フェーズは企業独自の営業プロセスに応じて再定義が必要です。重要なのは、型を守ることではなく、型を通じて自社の市場構造を“翻訳”することです。
データが整備されていなければ、構造は描けない
BtoBマーケティングは、その特性から「市場へのリーチ状況」の把握が出発点になります。そして、それを把握するためのフレームを紹介しました。しかし、このようなフレームを取り入れる際に、よくある課題として
- ターゲット企業・担当者層の定義が一致していない
- 名寄せが崩れて重複データが多い
- 情報鮮度が低く、メンテナンスが追いつかない
- 商談情報が営業のブラックボックスになっている
といったものがありますが、これらは全てデータ整備の在り方に関連するものです。この状態では、どれだけマップを描いても、見えるのは “構造”ではなく“断片”になってしまいます。現場で最も重要なのは「データが整備されていなければ、構造は描けない」という事実です。したがって、まず取り組むべきは「データ品質と定義の統一を整えること」でしょう。
構造を見てから動くこと
BtoBマーケティングの起点は、どこに届いているか/どこに届いていないかを把握することです。しかし実際には、この“構造的把握”ができている企業は決して多くありません。
今回紹介したMRS -Mapは、そんな“見えていない部分”を明らかにし、今後のマーケティングを設計するための重要な地図です。私たちBtoBマーケターは、こうした地図をもとに事業が目指す真の目標に貢献していかなくてはなりません。
- リード数ではなく、ターゲット含有率
- 短期的成果ではなく、市場構造
- 動く前に、まず見える化
こうした「構造を見てから動く」姿勢こそが、BtoBマーケターが戦略を誤らないための競争優位の源泉になるのです。